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東京高等裁判所 昭和26年(ヲ)193号 決定 1952年6月14日

本籍 東京都練馬区南町一丁目三千三百三十九番地

住所 前同所

抗告人(事件本人) 榎本亀之助

右代理人弁護士 浜田三平

同 小林澄男

本籍 東京都練馬区南町一丁目三千四百八十七番地

住所 前同所

相手方(申立人) 榎本重蔵

右代理人弁護士 伊地知重厚

右抗告人から東京家庭裁判所が同庁昭和二十六年(家)第四五一三号及び第五〇一一号準禁治産宣告及び保佐人選任申請事件につき、昭和二十六年五月二十八日なした審判に対し、適法な即時抗告の申立があつたから、当裁判所は左のとおり決定する。

主文

本件抗告を棄却する。

抗告費用は抗告人の負担とする。

理由

第一、抗告の要旨とその証拠

抗告人代理人は「原審判を取消し、本件を東京家庭裁判所に差戻す。」との裁判を求め、その理由として東京家庭裁判所は相手方榎本重蔵の申立に基き、昭和二十六年五月二十八日「事件本人榎本亀之助(抗告人)を準禁治産者とする。事件本人のため保佐人として本籍東京都練馬区南町一丁目三千三百三十三番地榎本時光を選任する。」との審判をした。そしてその理由とするところは、審理の結果事件本人たる榎本亀之助が浪費者と認定するに足ると謂うのである。しかし榎本亀之助は、嘗て昭和二年七月十五日準禁治産の宣告を受けたことがあるが、その時は財産分与について不服であつたのと、若気の至りで自棄を起して浪費したのであるが、その後堅実な生活に入り昭和二十二年四月十八日右宣告は取消され、爾後現在においては老後のことを考え、残つている僅かな財産を保持して老後の生活の安定を冀求し、少しも浪費者と認められる理由はない。本件申立は全く抗告人の実弟たる前記重蔵及び時光等において、抗告人に妻子がないのを奇貨とし、同人所有の山林約一反二畝、宅地二筆(計約三百九十坪)家屋一棟を乗取らうとし、同人が右財産を利用して自己の生活を樹立せんとするのを阻むためになされたものに外ならぬから、前記審判の取消を求めるため本抗告に及ぶ。と謂うにあつて、証拠として、乙第一ないし第七号証を提出し、当審証人川村真、同北沢学叡の各証言及び当審における抗告人(事件本人)の審問の結果を援用し、甲第四号証の成立につき不知を以て答え、その余の甲号各証の成立を認めた。

第二、相手方の申立の要旨とその証拠

相手方(事件申立人)代理人は、抗告棄却の裁判を求め、本件申請の理由として、事件本人(抗告人)榎本亀之助は、昭和二十二年四月に準禁治産宣告が取消されてから後、末弟時光の農事を手伝い、その報酬として売上げの一割を得ていたが、僅か一年位で他から資金を借りて闇屋などをやり始め、そのうち昭和二十三年三月と同二十四年十一月の二回に亘り、住家の屋敷廻りに生立する立木数本を売払い、同二十六年四月二十六日には所有の山林一反二畝を他に売却し、更に残された宅地をも処分せんとする気配も見受けられるので、このまゝ放置すれば、何程もない残余財産全部を蕩尽してしまう虞れがあるので、事件本人に対し浪費者として再度準禁治産の宣言を求めるために、本申立に及んだ次第である。と謂うにあつて、証拠として甲第一ないし第四号証、第五号証の一ないし四を提出し、原審における証人風祭弥平、被審人榎本時光、同榎本重蔵(申立人)同榎本亀之助(事件本人)当審証人浅見清吉、同篠三郎左衛門、同榎本時光、の各供述並びに当審における相手方榎本重蔵(申立人)の審問の結果を援用し、乙第一、二、五、七号証の成立につき不知を以て答え、その余の乙号各証の成立を認めた。

第三、決定の理由

公文書であることにより真正に成立したと推定せられる甲第一ないし第三号証、同第五号証の一ないし四、原審証人風祭弥平当審証人浅見清吉、同篠三郎左衛門、同榎本時光、同北沢学叡の各証言、原審における被審人榎本時光の供述並びに抗告人(事件本人)榎本亀之助及び相手方(申立人)榎本重蔵の各原審及び当審における審問の結果を総合するときは、抗告人はさきに昭和二年頃浪費者として準禁治産の宣告を受け、昭和二十二年四月十八日その取消があつたものであるところ、その後は一時実弟時光の農事を手伝い、幾許かの報酬を得て別に生活上困窮するわけでなく、資産としては東京都練馬区南町一丁目三千三百十一番地に山林一反二畝十一歩、同所三千三百三十九番地に宅地三百三十坪、同所三千三百三十七番地に宅地六十坪を所有するものであるが、現に妻子もなく性来の放浪癖からまじめな農事の手伝などを嫌つて、主食の闇商売やブローカーなどに手を出し、他人の甘言に弄せられて、実現しそうもない事業をもくろみ、昭和二十六年四月頃には十数万円の価値のある前記山林を無造作に他人に売却し、而かも手取金僅かに二万円位を得てこれを既に費消するなど、このまま放置するにおいては残り少い他の財産も幾許ならずして蕩尽されてしまう虞れあることなどが認められ、右事実に徴するときは抗告人は依然浪費の習癖を脱し得ず、財産の保全管理の能力に欠けるところあり、民法第十一条に所謂浪費者と認めるのが相当である。もつとも真正に成立したと認める乙第二、三号証によると、抗告人は前記山林の売買の無効であることを主張して、買受人を被告として所有権移転登記抹消請求の訴を提起している事実は明らかであるが、このことはかかる処分行為を目して抗告人の浪費癖の一徴表と認める妨げとなるものではない。

よつて原裁判所が抗告人を浪費者と認定して準禁治産の宣告をなし、その実弟で現に抗告人と同居してその生活の面倒を見つつある時光を保佐人に選任したのは、相当であつて本件抗告は理由がないから、これを棄却し、抗告費用を抗告人に負担せしめるを相当とし、主文のとおり決定する。

(裁判長判事 斎藤直一 判事 菅野次郎 判事 坂本謁夫)

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